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| 多和田紘希 : 第五回 陰影礼賛 |
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谷崎潤一郎の微笑はずっと、ザクロカンにとって最大公約数の一つ、鍾乳洞のつららのように内へ向かって伸び、凸凹にグラインダされた美意識の世界を、内側から光りゴケのように照らす、短命な詩人は数あれど、谷崎君は老いて巨大化し、例えるなら今まさに我々の頭上にて死にゆく、あのとろけた太陽のごとき優しさでもって、美しいことを遠目に照らし、かと思えばこののっぺりとした概念に、まるで楔形文字のような小気味良い模様を、碁でも打つように刻むがごとき、そういう正確な筆致に、それも新聞紙ほどに見事な筆致に触れて思うに、ここからが本題ですが、あの著者近影にある谷崎自身もまた、一人の生活者として、誰もが大げさにするつららの鍾乳洞に、雪駄で近所を散歩するほどの常識しか持たず出入りしただろうから、谷崎君の心は偏執的な部分ばかりがクローズアップされるけれど本当のところはそれとは違って、まるで春の川面のように明るく匂う、そいう爽やかな気持ちで彼は創作し、とうとう谷崎君はその生涯において、咳もせず痩せもせず健全だった。 |
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