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紅榴館コラムニスト

僕が散文できる多少の劇情

多和田紘希 : 第五回 陰影礼賛

谷崎潤一郎

谷崎潤一郎の微笑はずっと、ザクロカンにとって最大公約数の一つ、鍾乳洞のつららのように内へ向かって伸び、凸凹にグラインダされた美意識の世界を、内側から光りゴケのように照らす、短命な詩人は数あれど、谷崎君は老いて巨大化し、例えるなら今まさに我々の頭上にて死にゆく、あのとろけた太陽のごとき優しさでもって、美しいことを遠目に照らし、かと思えばこののっぺりとした概念に、まるで楔形文字のような小気味良い模様を、碁でも打つように刻むがごとき、そういう正確な筆致に、それも新聞紙ほどに見事な筆致に触れて思うに、ここからが本題ですが、あの著者近影にある谷崎自身もまた、一人の生活者として、誰もが大げさにするつららの鍾乳洞に、雪駄で近所を散歩するほどの常識しか持たず出入りしただろうから、谷崎君の心は偏執的な部分ばかりがクローズアップされるけれど本当のところはそれとは違って、まるで春の川面のように明るく匂う、そいう爽やかな気持ちで彼は創作し、とうとう谷崎君はその生涯において、咳もせず痩せもせず健全だった。
陰影礼賛より抜粋。「人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって下の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。」日本美とかいう今でこそ都合の良い風呂敷は、本来我々のDNAにある陰影こそが縦糸となり、古来基づいて設計されている日本建築の分野を西欧から切り離したあとの、そういう上品な陰影の忍ばされた和室で食う飯について、独自の目線を語った見事な文章です。
まずはそうこの谷崎にとって美がどんだけ冷静な物か知ると良い。
劇情の大事をうたう筆者は、この余裕を腹に据えかねて、しかし一切の羊羹が恐くて食えない。
もしもあなた、和室で羊羹食べて、ここに書かれた通りの心地がしちゃったら、どれほどに嫌か、ああ絶対に嫌だ。

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